建築士は、若い頃は修行をして技術を身につけられる職場を優先するイメージが強いです。
設計事務所や建築・建設会社などが浮かぶ人が多く、企画や設計、施工などの働く場所も様々です。
設計事務所や建設会社からの転職が非常に多く、日本で多くの建築士が最も多く働いている職場があります。
その職場は役所で、職業は公務員です!
「公務員は不景気は人気が上がり、景気が良いときは人気がない仕事」
の言葉の通り、2020年のコロナ感染で雇用不安が高まり、公務員をめざす若い世代は増えています。
ここでは、建築士の就職や転職先として公務員の仕事内容や採用試験について紹介。
知り合いの公務員から聞いた実話、また府の職員と一緒に仕事をした私の経験から、公務員に向いている建築士を分析しました。
Contents
公務員建築職とは?国家公務員と地方公務員の違い
公務員とは、官公庁や自治体で働く職員のことです。
採用された建築士が働く組織は、国の官庁や都道府県庁などで、国家公務員と地方公務員の2つに大別されます。
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国に雇用される職員(国会、行政機関 司法機関など) 霞が関で働く人のイメージ |
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地方自治体に雇用される職員 県庁、市役所、私達が身近でお世話になっている人達のイメージ |
建築士の採用が多いのは地方公務員で、ほとんどの役所で働いています。
(地方の市町村役場、全国の各地域の役所などによっては、建築士がいないところもあり)
公務員建築職の仕事内容とは?
公務員の建築士の仕事は多岐に渡ります。
建築士が所属する部署は、大きく分けて3部門あります。
(1)庁舎その他の建築物を造り維持管理所「営繕」関係と呼ばれる部署
(2)法令に関する部署
(3)街づくりに関する部署
そして例外的な仕事(4)を紹介します。
(1)庁舎等役所関係の建築物の建築、維持管理に関する仕事
役所に所属する建築士は、事業の計画立案や予算措置、入札等に関する事務、施工中の現場のチェック等を行います。
ただし、実際の設計や施工、工事監理等は外部に発注します。
チェックだけを専門に行う仕事は、公務員が務める役所以外の民間にもあります。
例えば、大手やデベロッパーなど自社内で設計施工部門を持たない会社は、外部の設計事務所や建設会社に外注します。
しかし、多くの建築事務所や建設会社は、自社で図面を作成し、場合によれば施工管理も行います。
自社で全てやる場合は、ある程度の建築士や施工管理士の人員が必要でますが、チェック業務だけならば少人数で済みます。
役所の場合は、チェック業務をするだけで多くの建築士を雇っています。
なぜ、役所は、直接、設計や施工に関わらないのに専門の建築士が必要なのか?
それは、公共的な建築物を造る関係もあり、役所の立場上、二重・三重にチェックを行いたいからです。
その建築に関連する事業計画を立て、予算要求をする仕事にも建築士の専門知識や積算などのスキルが必要です。
このような理由から部署が多い分だけ、建築士も大量に雇われています。
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建築基準法や都市計画法等の許認可に関する仕事
建築確認申請をはじめ、法律の申請受付業務も公務員の建築士の仕事で大きな割合を占めます。
建築行為や開発行為を行うには、色々な法令をクリアする必要があります。
建物を建てる時は役所に申請を行い、関係法令に適合しているというお墨付き(許可)をもらわなければ、工事に着手することはできません。
建築基準法に適合しているという証明をする業務は、民間の検査機関でもできます。
しかし、最終的な指導監督権限は、基本的には役所にあります。
また、違法な建築物に対する指導や処分も役所の仕事です。
許認可関係は重要な業務なので、人材育成の為に数年ごとに全ての部署を経験させられる若手
公務員もいます。
街づくりに関する仕事
都市計画に関係する業務、簡単に言えば、街づくりに関する仕事もあります。
この仕事は面白いので、希望する建築士が多いです。
どこに、どのような公共施設を配置する、また、この地区はどのような地区として街づくりを進めていくようなプラン作成も建築士の仕事です。
ただ希望する人が多い割には部署の定員も少ないので、この仕事につくのは優秀な人でないと難しいです。
高度成長期のように街の都市開発がこれから積極的に進むとは考えられません。
今後この部署は一部の地域を除けば、先細りになると考えられます。
その他、一般的な公務員としての仕事
建築士として役所に入れば、建築に関係する仕事ばかりをするとは限りません。
全然、畑違いの仕事をすることもあります。
採用された時は建築関係の部署であっても数年経てば、全く建築と関係ない業務のd配属になることもあります。
目的は異業種交流ではないですが、公務員の話を聞くと専門以外の職場に配属されることは、よくあるようです。
将来、自分が配属される部署は、入庁する前はわからないです。
建築士の公務員への就職状況とは
民間企業と同様に新卒採用と中途採用の2つの採用があります。
新卒で就職試験として応募することもできます。
転職であれば、中途採用枠に応募しますが、ほとんどが年齢制限が設けられています。
多くの建築の技術職の採用は、年齢は上限で30代半までです。
もし、公務員をめざすならば、20代の間に挑戦する方が、採用されやすいです。
ただ、最近では就職氷河期の世代を支援する動きが高まっているので、30代後半から40代に採用の門戸が広がりつつあります。
そして、募集される部署によっても倍率が変わります。
倍率が低く人気がないので狙い目は、土木課です。
また、国家公務員や地方公務員になれない人は、関連の外郭団体も入りやすいです。
実は、この県や市の子会社のような外郭団体へは、公務員職員が多く出向しています。
60歳の定年退職後の雇用の受け皿にもなっています。
県や市の組織では、非正規雇用で働く多くの人がいる反面、このように優遇される人もいるアンバランスさがあります。
人件費の節約の為に仕方がないのかもしれませんが、決められた雇用体制を維持し続ける融通の効かない組織です。
年齢が高い60代以上がズルズルと残ることで、若い世代の採用枠を奪っています。
非正規雇用で働く子育て世代を積極的に公務員の正社員に雇用する方が社会の為です。
国が進める少子化政策も若い世代の雇用が増える方が、収入も安定するので出産率も上がると思います。
公務員の採用部署:建築士は技術職で採用される事が多い
ここでは国家公務員と地方公務員の部署や職種の採用について概略を紹介します。
国家公務員をめざす就職試験の場合
国家公務員の採用試験は、総合職と一般職試験があり、部署は人事院実施と各機関の実施に分かれます。
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総合職は政策の企画立案等の高度な業務に携わる職員 |
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一般職は事務処理等の提携の業務に携わる職員 |
国家公務員の主な採用部署は、大きく分けて以下になります。
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専門職試験(国税、財務、労基(労働基準監督署)など) ・特定の省庁で専門的な業務に従事する職員を採用 ・国税専門官、財務専門官、労働基準監督官など |
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専門職試験(外務、防衛、司法など)
・特定の省庁で専門的な業務に従事する職員を採用 ・外務省・防衛省専門職員、裁判所職員、国家職員など |
各機関の専門職試験になる国土交通省では、多くの建築士が技術職で採用されています。
公共事業は予定価格の積算、施工検査が必要で建築の知識がなければ公共事業を執行できません。
地方公務員をめざす就職試験の場合
地方公務員の職種は主に4つあります。
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県庁・市役所・出先機関に勤務し、行政全般の業務に幅広く携わる基本的には採用された自治体の幹部候補としての採用となる 採用の間口が一番広く、多くの人はこちらを志願する。 |
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「土木」「建築」「機械」などの専門分野に関する部署に配属 専門知識を活かした業務に携わる |
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「看護師」「臨床検査技師」「栄養士」「保育士」「幼稚園教諭」などの資格や免許が必要な業務に携わる 国公立の病院に勤務する医師 |
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「警察官」「消防官」などの地域や住人の安全を守る職種 |
建築士は主に「技術系職種」に採用されます。
「技術系職種」には「土木」「建築」「電気」「機械」「化学」「農業・農学」などがあり、それぞれの専門知識を持つ人材が採用されます。
ただ、建築士であっても「事務系職種」に応募して自治体の幹部候補をめざす人もいます。
地方公務員は都道府県職員、政令都市職員と市役所職員に分かれます。
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事務系職種、技術系職種、資格免許職種、 公安系職種 |
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事務系職種、技術系職種 |
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資格免許職種、公安系職種 |
注釈:政令指定都市とは、都道府県と同格の扱いを受ける大規模都市
例)札幌市、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市など
建築士であれば、「都道府県職員」か「政令指定都市職員」のどちらかの採用になります。
公務員になるメリットとデメリット
新卒で官公庁へ就職する、又は民間で働く建築士が公務員への転職する場合のメリットとデメリットをまとめました。
公務員の一番のメリットは福利厚生の良さ
過去に労働条件の悪さに苦労した建築士は、福利厚生などの労働条件の良さに転職して良かったと言う人が多いです。
その一つが民間よりも休みが取りやすいことです。
有給は勤務し始めた初年度から年間20日から支給される上に、1時間ごとに取得できます。
例えば1日7時間45分労働だと1時間年休を取得しても6時間45分が残ります。
1時間ごとに年休が取れると、プライベートな用事と両立させやすいので便利です。
部署によっては年休を取る暇もないぐらい忙しいところもあります。
ただ、基本的な権利として認められているので、民間よりは取得しやすいです。
また、公務員は住宅ローンを組みやすいなど社会的信頼度が高いメリットもあります。
外郭団体であっても府の名前が付けば、一年程の勤務経験でも有利な条件で銀行のローンが組めます。
公務員の威力は、住宅ローンを組むときには特に感じる人が多いです。
ただ信用面が重視される公務員では、その反面、交通事故の理由でも起訴された段階で、すぐに解雇される厳しさもあります。
無論、一部の認められた職以外は副業も禁止されています。
運が悪いと、民間に勤める人よりも大きくマスコミのネタにされる場合もあります。
税金で給料が賄われている公務員は、市民の目も厳しくなります。
公務員になるデメリットは仕事の内容
一番のデメリットは、今までのキャリアが役に立たない部署に配属されるリスクがあることです。
人事異動が定期的にあり、その都度、どんな職場でどんな仕事をするかはわかりません。
実際に公務員への転職を考える際には、必ずしも自分のやりたい設計の仕事ができるとは限らないです。
実際に仕事が面白くないと言う人が多いことも事実です。
特に地方公務員になれば、ルーティーン化した単純な仕事にやる気を失う人もいます。
また勤務の評価システムはありますが、頑張っても民間のように飛躍的に給料が上がることもありません。
仕事をやってもやらなくても給与に差がつかないと、頑張るのが損に感じることもあります。
やり甲斐のなさから民間から公務員へ転職した優秀な人でも数年働くと、また民間へ戻る人も少なくありません。
メリットとデメリットのまとめ
【メリット】
- 福利厚生が手厚い
- 懲戒免職にならない限り、解雇されるリスクがない
- ノルマに追われずに、じっくりと仕事に取り組むことができる
- ローンが組みやすいなど社会的信頼度が高い
【デメリット】
- 自分のキャリアが役立たない部署に配属されることがある
- 年齢が上がると民間企業へ転職できなくなる
- 頑張っても給与や待遇が飛び抜けて上がる事はない
- ルーティーン化した面白くない仕事も多い
公務員に向く建築士は安定を求める人
公務員の最大のメリットは、安定感です。
その代償として人生の先が見えてしまう物足りなさはあります。
私が知る限りですが、多くの仕事は充実感が無いと言う建築士が多いです。
技術職で採用された知り合いの公務員も、3年勤めた後で民間へ転職しました。
それも30代前半だったので民間への転職も成功できたと思います。
民間企業や独立して建築業を営んでいる人に比べて、自分の裁量で任せられる仕事が少ないので、型にはまった仕事が嫌な人には向きません。
組織で決められたことを無難にこなせる人にはに向いていますが、尖がった人は組織から排除される傾向もあります。
この仕事は効率が悪いし、無駄なので変えましょうと提案しても組織では聞き入れられないし、体制は直ぐには変わりません。
ただ、公務員の特権はリストラが無いので、安心して業務に集中できる利点もあります。
部署移動も2年〜3年ごとにあるので、嫌な上司が居ても数年我慢すれば、離れられる良さもあります。
安定か、やりがいを取るか?
これは働く目的にも関わってくるので、どちらが良いとは言えません。
少し仕事のペースを落として充電期間を取りたい人は、30代までであれば公務員職で数年間、勤めた後で民間へ戻る方法もあります。
40代を過ぎると社風の違いから民間企業が採用を敬遠することもあるので、注意が必要です。
ただ、子育て支援は充実しているので、子供が小さい間は女性が働く場所としては特におすすめです。
給与は安くなりますが、小学校へ上がるまでは時短制度もあるので、民間のようなマタハラや解雇される心配はありません。
休みを取りやすい部署に配属されれば、一級建築士などの資格取得には最適な環境です。
仕事が面白くなくても時間の使い方次第では、自分のスキルアップに最適な環境です。
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