宅建士が住宅売買の仕事をする時は、法改正と防火指定の用途地域に注意

宅建士の転職と仕事

宅建士で土地の売買に関わる仕事をする時は、登記に注意しなければならない事を前回の記事で書きました。

(参考記事:宅建の仕事で不動産の仕入れができない?登記が困難になる理由とは)

 

しかし不動産の売買の取引前には、土地だけでなく建物本体にも注意する事があります。

プロの宅建士にとっては当たり前の事でも、住宅を購入するお客様の立場からは、説明しても理解を得られにくい事があります。

 

今回は、私が仕事で経験した「用途地域が法改正で変更になった事例」を紹介します。

法改正になり、建てられる住宅の条件が変更になる場合、法改正に対応していない住宅をお客様が買ってしまう事もあります。

 

将来、法改正に適応していない住宅は、将来の増改築に経費がかかるだけでなく、不動産の資産価値が落ちる事もあります。

最近、特に増えているのが「防火地域・準防火地域の指定地域の拡大」です。

この法令改正を見落としていたせいでトラブルになる事があります。

 

今回の内容は、宅建試験では「法令上の制限」の科目の中で出題される内容です。

また宅建士になる人だけでなく、これから住宅を売買に携わる人もぜひ、読んでください。

住宅物件は法令改正に注意

住宅物件を扱う仕事をしていると下記のような事に遭遇する事があります。

・法改正で、今まで防火指定の用途地域でなかったのに、新たに指定される

プロの宅建士であれば知っている事だと思いますが、宅建の初心者向けに説明します。

用途地域とは、都市計画で建築できる建物の種類や用途(使用目的)の制限を定めたルールです。

図面に明記してある建ぺい率や容積率は、用途地域ごとに条件が決められて、住宅は建てられます。

主に住居、商業、工業などの3つの土地利用を定めています。

宅建士になるための過去問解説【法令上の制限】建築物の用途制限

この用途地域は、5年に一度の割合で全国で見直されています。

 

また、市街地であれば、密集地など火災の被害が広がる恐れがある場所には「防火地域」や「準防火地域」の指定を行います。

この指定対象エリアに該当すると「建てられる建築物に制限がある」「防火仕様にする」など義務が生じます。

(参考記事:宅建士になるための過去問解説【法令上の制限】防火地域・準防火地域内の制限)

 

今まで自分の住む地域が、住宅を建てた時点では、防火・準防火の指定区域になっていなかったのに、法改正で新たに該当する場合があります。

「35条重要事項の説明」で法令改正に注意する

一般消費者が住宅を購入する時は、宅建士から重要事項の説明を受けます。

これは契約をするかどうか購入者が判断するために行われるものです。

 

重要事項の説明をする時は、予め買主にとって不利になる情報は説明する義務が業者にはあります。

しかし、業者間の取引であれば、35条重要事項の説明の義務はなく、書類の交付だけになります。

この時に「法令改正」があれば、購入者が素人であれば、理解するまで説明してください。

指定対象エリアが今後も増える理由

近年、災害に強い街づくり政策のため、「防火地域」や「準防火地域」の指定対象エリアが広がっています。

平成7年度、阪神・淡路大震災や平成23年度の東日本大震災などを経験した事から、災害に強い街づくりの必要性が考えられるようになりました。

 

今後、30年以内に高確率で南海トラフの大規模な地震が発生する危険性が指摘されています。

よって地震が起きた場合の火災による被害の軽減を目的するために、市街地では火災の恐れがある指定地域を広げています。

 

過去に取引経験がある地域でも安心はできません。

1年後には、都市計画法に規定される「市街地における火災の危険を防除するために定める地域」になる可能性もあります。

特に最近の住宅地では「準防火指定地域」に新たに該当する地域が増えています。

防火地域や準防火地域に該当した場合

もし「防火地域」や「準防火地域」に該当すると、一定の防火仕様で建築するなどの対応が必要になります。

 

建築物の外壁・軒裏の材料や窓の開口部の仕様に対して、一定の防火性能が必要になります。

【防火措置の一例】

(引用画像:大阪府公式サイトより)

通常、そのような防火の指定地域に入っていない時期に建てられた木造住宅は、防火仕様に対応していない場合がほとんどです。

今後、増改築をする時に法令基準を守ろうとすれば、上記のような防火仕様にする義務が生じます。

防火措置の効果と目的

これらの防火措置の目的は、火災時に延焼するまでの時間を遅らすことで避難時間を確保して、人的被害を最小限に軽減するためです。

また、建物更新時に不燃化を促進することで、市街地全体の防火性能を高める事も狙っています。

建蔽率が60%以上の地域は、焼失率が高くなることから、建ぺい率が60%以上の地域が指定区域になりやすいです。

 

急に市街地の全部が指定地域になるのではなく、半年以上かけて地域地区、町村ごとに対応していくようです。

 

よって売買しようとしている住宅地が、「指定区域に入っている」、または「数年以内に指定地域に該当するか」などを確認する必要があります。

防火・準防火地域のほか都市計画情報については、市のホームページで確認できる他、都市政策課や都市計画係でも確認ができます。

 

また、防火以外の法令上(行政指導、条例等も含む)の規制にも注意が必要です。

従来の建物は既存不適格建築物になる

では、現状で法令改正に適応していない住宅はどうなるのでしょうか?

法令に合わなくなったからと、直ちに現状の建築物を全て防火仕様に建て替える必要はありません

 

用途地域が変更する前に建てられた建築物は、既存不適格建築物として、そのまま使い続けることできます。

既存不適格建築物とは

規制の目的等に応じて一定の期間または一定の事由が発生するまでの間、改善することを猶予していくもの

(建築基準法 3条2項より)

しかし、法改正新しく建てられる建物、及び増改築は,法改正の規定に準用する必要があります。

もし防火規定に関する既存不適格建築物に該当しないものとされると、違反建築物になります。

違反建築物を買ってしまう例

よくある事例が、このような違反建築物を買う例です。

持ち主が知っているか知らなかったは別にして、法改正の後でも、法令に準用しない増築をしてしまう事があります。

 

新築の場合は、確認申請を行い検査員が現場に確認にも来るので、違反建築物が建てられる事は、増改築よりも少ないです。

しかし、増築の場合は面積上、申請が必要になる物件であっても、申請せずに増築をこっそりと行う場合が多いです。

 

近所の人に通報されない限り、役所が調査をする事はないので分かりません。

よって法令改正に対応する必要がある建物も見逃されてしまいます。

私が今まで調査に入った物件でも、このような違反建築物が幾つかありました。

法改正に対応しない住宅を買うリスク

もし、法令の規定を守っていない住宅をお客様(購入者)が買ってしまうと、将来への負担やリスクが増えます。

違反建築物は、火災や災害時に危険であるだけではありません。

 

将来、もし増改築をする時は、法令に該当しない箇所は全て防火仕様にする必要があります。

物件によっては再築や大修繕に近い状態になることもあります。

 

また、転売する時に違反建築物であるという事だけで、資産価値が落ちることもあります。

 

現状では違反建築物になっていない既存不適格建築物を購入する場合もリスクは同じです。

違反に該当していないだけで、法改正に対応する必要がある事は変わりません。

 

法改正に対応しない建物は、増築する時に経費がかかる事を知っておく必要があります。

よって自分が取り扱う不動産がある地域の法改正には注意を払い、常に最新の情報収集をする必要があります。

特に、重要事項の説明35条の説明を行う宅建士は注意してください。

 

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